落ち葉の間や枯れ木から、傘と柄をもつキノコが出ています。目に見えるこの部分だけで、一つの生き物なのでしょうか。それとも、その先に体が続いているのでしょうか。
キノコをつくる菌の体は、土や木の中にも広がっています。そこで栄養を取り込む細い糸の集まりが、菌糸体(きんしたい)です[1][2]。ふだん目にする傘や柄は、胞子をつくるためにできる部分。「本体」を探すなら、目に見えるキノコと、その先に続く菌糸体を合わせて見る必要があります。
見えているキノコは、胞子をつくる構造です
まず、地上に出ている傘と柄の部分から見ていきます。この部分は子実体(しじつたい)と呼ばれます。胞子をつくり、散らすことに関わる構造です[1]。
傘の裏にひだが並ぶキノコでは、ひだに胞子がつくられます。柄が傘を持ち上げることで、放出された胞子が地面近くの草や小枝に遮られにくくなり、風に運ばれやすくなります[1]。ここでは傘と柄のある姿を例にしていますが、子実体の形はこれだけではありません。
子実体をつくっているのは、菌糸(きんし)という細い糸状の構造です[1]。土や木の中に広がるのも菌糸で、集まり方や働きが異なります。
一本のキノコを見つけたら、その付け根から先にも体が続いていると考えると、菌の姿を捉えやすくなります。
菌糸が集まると、菌糸体になる
菌糸は、先端の付近で伸びていきます。伸びながら枝分かれし、また伸びる。この繰り返しで、糸が網の目のように広がっていきます[2]。この菌糸の集まりを、菌糸体と呼びます[1]。

菌糸体の広がり方は周囲の環境によって変わります。栄養がある方向へ伸びることもあれば、伸びにくい場所を避けるような形になることもあります。成長する部分だけでなく、失われる部分もあるため、決まった輪郭の体が土に埋まっているわけではありません[2]。
菌糸が束になり、ひも状の構造をつくる種類もあります[2]。細い糸が単独で伸びる場合も、まとまって伸びる場合もあるのです。
ここで紹介しているのは、目に見えるキノコをつくる菌類の姿です。
土だけでなく、枯れ木や落ち葉の中にも
冒頭の写真では、キノコが枯れ木から生えています。菌糸体が広がる場所も、土の中だけではありません。木の内部や落ち葉の層も、そのすみかになります[1]。

写真:PerytonMango/Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0)。
地面から出る子実体もあれば、朽ちた木や生きた木の幹に出るものもあります[1]。出ている場所は、菌糸体がどこにあるのかを考える手掛かりです。ただし、その場所だけで菌の広がり全体が分かるわけではありません。
キノコが見えない時期は、どうなっている?
子実体が見えない時期にも、菌糸体がそこに残っている場合があります[1]。条件が合わずに子実体をつくらないということと、菌そのものが消えてしまったということは、同じではありません[1]。
菌糸体は失われることもあるため、見えなくなった後も必ず生きているとは限りません[2]。子実体の有無だけでは判断できない部分が残ります。
栄養はどこから来るのか
菌糸が広がるのは、栄養を得ることと直結しています。
枯れ木や落ち葉を利用する菌類は、菌糸から周囲に酵素を出し、有機物の大きな分子を分解して、できた小さな分子を取り込みます[2]。食べ物を体の中へ丸ごと入れるのではなく、体の外で分解してから吸収するのです。

この仕組みが分かると、菌糸体が「広い」ことの意味も見えてきます。菌糸が分岐して広がることで、周囲の有機物に接し、栄養を得る範囲を広げられます[2]。
植物の根と関係をつくる菌類もいます。菌糸と根が結びついてできる構造を菌根(きんこん)といいます[5]。植物から糖や脂質を受け取り、植物の水や養分の吸収を助ける関係が知られています[3]。同じ場所に菌糸と根があっても、菌糸は植物の根そのものではありません。
森にいる菌を、どうやって調べる?
菌糸体が見えにくい場所にあるなら、森にすむ菌はどうやって調べるのでしょうか。研究でも、目につく子実体が手掛かりの一つになります。
Chenらが2018年に報告した研究では、中国・白雲山の温帯落葉広葉樹林で、地形や光、植物の分布と、キノコの分布との関係を調べています。調査範囲は5ヘクタール。2016年5月から10月まで、月に1回、計6回訪れました[4]。
土、朽ちた木、落ち葉、生きた木に出た子実体を採集して乾燥・保存し、外形と顕微鏡で見える特徴から種を調べました。記録されたのは、合計2,433個の子実体、217種です[4]。
子実体2,433個・217種。
どの種が、どこに出たかを記録。
菌そのものの個体数や、土・木の中の菌糸体の量。
2016年5〜10月
月1回、計6回
子実体2,433個を、菌2,433個体と読み替えることはできません。一つの菌糸体が複数の子実体をつくることがあるためです[1]。さらに、調査した時期に子実体を出さなかった菌は、この方法では捉えられません。著者らも、地下の菌類や、季節・年による変動を調べることを今後の課題に挙げています[4]。
次の散歩で見てみたいこと
林や公園でキノコを見つけたら、傘の形に加えて、生えている場所や時期にも目を向けてみてください。
何から出ているか。土なのか、落ち葉の間なのか、倒木や切り株なのか。写真に残すなら、傘だけでなく周囲の様子も一緒に写すと、生えていた場所を後で見返せます。
いつ出ていたか。同じ場所を月をまたいで見れば、子実体が見られる時期の違いを記録できます。観察日と見つけた場所を残しておくと、「いつ出ていたか」という問いを具体的に追えます。
近くにも生えているか。同じ形のキノコが並んでいたら、一つの菌糸体から出たのか、別々なのか。見た目だけでは決められませんが、目の前の一本から、土や木の中に続く体へと思いを巡らせるきっかけになります。
もっと知りたい人へ・参考文献
キノコと菌糸体の基本を知るなら[1][2]、森で子実体を数える調査の方法を詳しく追うなら[4]が入口になります。本文の番号から、それぞれの文献へ移動できます。
[1] キノコと菌糸体の基本
Heino Lepp. What is a fungus? Australian National Botanic Gardens.
[2] 菌糸の成長と、栄養を得る仕組み
Heino Lepp. The mycelium. Australian National Botanic Gardens.
[3] 菌糸体と植物との関係を紹介する解説
Eddie Johnston & Grace Brewer(2023年3月11日). Mycelium: Exploring the hidden dimension of fungi. Royal Botanic Gardens, Kew.
[4] 白雲山の森林で子実体の分布を調べた研究
Yun Chen et al. (2018). Macrofungal species distributions depend on habitat partitioning of topography, light, and vegetation in a temperate mountain forest. Scientific Reports 8, 13589.
[5] 菌根の仕組みを説明する資料
Heino Lepp. Mycorrhizas. Australian National Botanic Gardens.
冒頭写真:Vladimir Srajber/Pexels(Pexels License)。土と木の図はAI生成の模式図です。



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