冒頭の図:R. Qiuほか(2025)/Wikimedia Commons、CC BY 4.0(縮小)。標本図を拡大する
恐竜の復元画を見ると、赤茶色の羽毛や、縞のある尾が描かれています。化石しか残っていないのに、どうして色まで分かるのでしょうか。
手がかりの一つは、羽毛の痕跡に残った、色素をたくわえる小さな構造です。今の鳥の羽毛と比べることで、調べた部分の色調を推定できる場合があります。また、色素の痕跡がどこに分布するかを調べると、明暗の模様も見えてきます。ただし、そこから全身の正確な色が一度に決まるわけではありません。
今回は、羽毛のある恐竜の化石を調べた研究から、色を推定する方法と、その推定が届く範囲をたどります。
手がかりは、羽毛の痕跡にありました
2010年、研究チームは、当時シノサウロプテリクスと呼ばれていた恐竜の標本を調べました。対象は「IVPP V14202」という番号の標本です。尾の付け根に近い部分から試料を採り、走査型電子顕微鏡(そうさがたでんしけんびきょう)で羽毛の痕跡を観察しました。この装置は、表面のごく小さな構造を調べるために使われます。[1]
そこで見つかった微小な構造を、研究チームはメラノソームと解釈しました。メラノソームは、メラニン色素をたくわえる細胞内の構造です。色素を入れる小さな容器、と考えるとイメージしやすいでしょう。
ただし、小さな粒に似ているというだけで、メラノソームと決められるわけではありません。研究では形に加えて、羽毛の内部での配置も判断材料になりました。微生物に由来する構造ではないかという別の説明と比べながら、羽毛の色素に関わる痕跡なのかを検討しています。[1]
ここで大切なのは、化石の表面に見える茶色を、そのまま恐竜の体の色と読んだのではないことです。色の推定につながったのは、顕微鏡で調べた構造でした。
同じ標本でも、研究の年代で名前が変わることがあります
この標本は、2025年の研究では Huadanosaurus sinensis の模式標本(もしきひょうほん)とされています。模式標本とは、種の名前を定める基準となる標本です。古い研究の「シノサウロプテリクス」という名前と、現在の分類を区別するため、ここでは標本番号も添えています。[3]
小さな構造から、どうやって色を推定するのでしょうか
比較相手は、今も生きている鳥です。現生の鳥なら、羽毛の色と、その中にあるメラノソームの形や配置を対応させて調べられます。その関係を化石の構造と比べることで、過去の羽毛がどのような色調だったかを考えます。
2010年の研究では、尾の一部で見つかった構造を、現生の鳥の赤褐色系の発色に関わるメラノソームと比較しました。そこから、調べた尾の部分には栗色や赤茶色に近い色調があったと推定しています。[1]

「赤褐色系」という推定は、絵の具の色番号を一つに決めるような測定ではありません。この研究は、標本全体をくまなく測って全身を着色したものでもありません。調べた試料の場所と、推定された色調をセットで読む必要があります。
羽毛の色は、メラニンだけでは決まりません
羽毛の見え方には、ほかの色素や、光の反射に関わる微細な構造も影響します。微細な構造によって生じる色は、構造色(こうぞうしょく)と呼ばれます。メラノソームが残っていても、それだけで当時の羽毛の見え方をすべて再現できるとは限りません。[1]
つまり、分かった部分に意味がないのではありません。「この場所の色調について、根拠が得られた」と受け取ると、発見の価値と限界を一緒に理解できます。
「何色か」と「どんな模様か」は、別々に調べます
赤茶色なのか、黒っぽいのかという問いと、尾に縞があるのかという問いは違います。前者は色調、後者は体のどこに明暗があるかという模様の問題です。

2017年の研究では、シノサウロプテリクスとされていた別の標本を撮影し、羽毛の色素の痕跡が残る場所を調べました。そこで復元されたのは、尾の縞や顔の帯などの明暗の配置です。研究者たちは、正確な色合いの決定よりも、色素の分布に注目しています。[2]
同じ「恐竜の色」の研究でも、顕微鏡で小さな構造を見る研究と、体に沿った模様の分布を見る研究では、得られる答えが異なります。縞の配置が分かったことと、その縞を塗る色が正確に決まったことは分けて考えましょう。
二つの研究は、同じ個体を調べたものではありません
2017年の研究が撮影したのは、NIGP127586、NIGP127587、IVPP V12415の3標本です。2010年に使われたIVPP V14202は、この研究では利用できませんでした。著者たちも、一部の試料から得た色の推定を、別の標本の全身へ広げることには注意を促しています。[2]
さらに、IVPP V12415は2025年の研究で Sinosauropteryx lingyuanensis の模式標本とされました。[3] 同じ名前で紹介されていた研究でも、対象の標本までたどると違いが見えてきます。標本番号は少し無機質に見えますが、研究と実物を結び付ける手がかりです。
化石になる過程で、手がかりも変化します
今の鳥と比べれば、それだけで答えが出るのでしょうか。もう一つ考える必要があるのが、保存されるまでに起きた変化です。
2013年の実験研究では、現生の鳥の羽毛を高温・高圧の条件で処理しました。その結果、メラノソームの形や配置が変化し、ほかの発色に関わる構造が失われることが示されています。[4]
この実験は、個々の化石が経験したすべての条件を再現するものではありません。それでも、化石に残った形を、生きていたときの形と無条件に同じものとして扱えないことが分かります。残っている情報を読み取るとともに、失われたり変わったりした情報を考慮する必要があります。
復元画を見るときに、確かめたい三つのこと
今回の研究から分かるのは、化石に残った羽毛の構造や色素の分布が、過去の色調・模様を推定する根拠になることです。一方、その根拠が、そのまま全身の正確な配色を決めるわけではありません。
復元の根拠を読むための三つの問い
- どの標本の、どの部分を調べた?
尾の一部の結果と、全身についての説明を区別します。 - 何を手がかりにした?
微細な構造からの色調の推定か、色素の分布からの模様の復元かを確かめます。 - どこからが補った表現?
復元画の色や質感のうち、化石の証拠に基づく範囲を見ます。
復元画は、研究で分かったことを一目で伝えてくれます。その絵のどの部分を化石が支えているのかまで知ると、恐竜の姿を見る楽しみがもう一つ増えそうです。
もっと知りたい人へ・参考文献
[1] 尾の色調を推定した方法を読む
Zhang, F. et al. (2010). Nature 463, 1075–1078.
Fossilized melanosomes and the colour of Cretaceous dinosaurs and birds
[2] 尾や顔の模様を調べた研究を読む
Smithwick, F. M. et al. (2017). Current Biology 27, 3337–3343.e2.
Countershading and Stripes in the Theropod Dinosaur Sinosauropteryx Reveal Heterogeneous Habitats in the Early Cretaceous Jehol Biota
[3] 標本と現在の分類を確かめる
Qiu, R. et al. (2025). National Science Review 12, nwaf068.
Two new compsognathid-like theropods show diversified predation strategies in theropod dinosaurs
[4] 保存の過程で構造が変わることを知る
McNamara, M. E. et al. (2013). Biology Letters 9, 20130184.
Experimental maturation of feathers: implications for reconstructions of fossil feather colour
2017年の訂正。本記事では、抄録と図の説明で確認できる結果を紹介しています。



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