カメレオンが色を変えるとき、皮膚の中では何が起きているのでしょう。色のついた粒が動く、と考えるだけでは説明しきれない変化があります。パンサーカメレオンの雄を調べた2015年の研究では、皮膚の細胞に並ぶ小さな結晶の間隔が、鮮やかな色合いの切り替えに関わることが示されました。[1]
結晶があると分かっただけで、なぜ色の変化まで説明できるのでしょうか。研究チームは皮膚を顕微鏡で比べ、取り出した標本の色を変え、光の反射を計算しました。観察と実験を順にたどると、「色を変える」という一言の中身が見えてきます。
実際に変わるのは、どの色?
研究の中心になったのは、マダガスカル原産のパンサーカメレオン(Furcifer pardalis)です。成体(せいたい)の雄は、別の雄と向き合ったり、雌に求愛したりするときに体色を変えます。緑の部分が黄や橙に近づき、青い模様は白っぽくなります。一方、赤い部分では色合いよりも明るさの変化が目立ちます。変化は数分ほどで進み、元へ戻ることもできます。[1]

原著図の上半分を見ると、同じ個体でも、皮膚の場所によって変わり方が違うことが分かります。上段の雄では青い横帯が白っぽくなり、下段の雄では赤い模様を残して、その周囲の緑が黄色に変わっています。全身を一色に塗り替えるような変化ではありません。
「明るさ」と「色合い」を分ける
暗くなることと、緑から黄色へ変わることは、同じではありません。この研究では、雌や若い個体でも、細胞の中で色素を散らすことによって皮膚の明るさを変えられるとしています。成体の雄に見られる鮮やかな色合いの切り替えには、さらに別の仕組みが働いていました。[1]
「カメレオンは何色にでも変われる」と考えるより、どの種の、どの成長段階の、どの部分を見ているかを分けたほうが、研究の結果を正確に受け取れます。ここからは、この雄の皮膚で調べられた仕組みを見ていきます。
透明な結晶が、光の色を選ぶ
皮膚の色には、色素が関わります。色素は、届いた光のうち特定の波長を吸収します。吸収されずに外へ出てきた光によって、私たちには色が見えます。原著でも、黄や赤の色素を持つ細胞が皮膚の見え方に関わることが説明されています。[1]
研究チームが注目したのは、それに加えて光を反射する虹色素胞(こうしきそほう)という細胞です。中には、グアニンという物質の小さな結晶が並んでいました。グアニンの結晶そのものは透明です。それでも、結晶とその周囲の物質では光の進み方が異なるため、規則的な並びが光の反射に影響します。
結晶の並びで反射した光の波が重なると、ある波長の光は強め合います。どの波長が強く返ってくるかは、結晶の配置や間隔によって変わります。色素による吸収とは違い、こうした微細な構造によって生まれる色を構造色(こうぞうしょく)といいます。
青い光を反射するのに、皮膚は緑に見える?
ここで、皮膚の見た目と結晶の反射を分けて考える必要があります。原著では、落ち着いたときの結晶配列が青寄りの光を反射し、黄色い色素を持つ細胞と組み合わさることで、緑の背景色になると説明しています。[1]
見える色は、結晶の反射だけでは決まらない
結晶の間隔が変わると、強く反射される光の波長が変わります。皮膚の外から見える色には、そこに色素の働きも重なります。「反射が青寄りから長い波長側へ動く」ことと、「体が青から赤へ変わる」ことは同じではありません。
結晶が色のついた絵の具に変わったわけではなく、色素が不要になったわけでもありません。皮膚を構成する複数の要素が、最終的な見え方をつくっているのです。
結晶の大きさか、それとも間隔か
もし結晶の構造が色変化に関わるなら、落ち着いた皮膚と興奮した皮膚では、何かが違うはずです。研究チームは同じ雄の皮膚を二つの状態で採取し、電子顕微鏡で比較しました。採取位置は、互いに最大1cm離れた範囲です。同じ場所をずっと撮影した画像ではなく、近い位置から採った二つの標本の比較でした。[1]
浅い層の虹色素胞を調べると、結晶自体の大きさは変わらず、結晶どうしの距離が違っていました。落ち着いた状態では間隔が小さく、興奮した状態では広がっていました。この違いが、反射される光を短い波長側から長い波長側へ動かす、と研究者は考えました。

ただし、二つの状態で間隔が違うという観察だけでは、それが色を変える仕組みだと十分に確かめたことにはなりません。色と間隔が一緒に変わることに加えて、構造を変えたときに予測どおりの色になるかを試す必要があります。
皮膚標本を使って、逆向きの変化を起こす
水の移動を利用した実験
次に研究チームは、興奮したときの白や黄の皮膚の標本を、濃度の高い液に入れました。狙いは、細胞から水が出る条件をつくり、結晶の配列を縮めることです。ここでは浸透圧(しんとうあつ)を変え、膜を隔てた液の濃さの違いによって起こる水の移動を利用しています。[1]
間隔が広がると長い波長側へ反射が移るのなら、反対に縮めたときは短い波長側へ戻るはずです。実際に測ると、皮膚標本の反射は青寄りへ移りました。顕微鏡で個々の細胞を追った観察でも、色が段階的に変わることが確認されています。
この実験の向きは、生きた雄が興奮するときとは逆です。雄の興奮では間隔が広がる側、標本を液に入れた実験では縮む側を調べています。生きた個体へ液をかけた実験でも、背景の色を見せて合わせさせた実験でもありません。
観察・操作・計算がつながる
研究者はさらに、結晶の大きさを固定し、間隔を変えたときに生じる色を光学モデルで計算しました。その結果は、生体で観察した色の変化や、皮膚標本を使った実験の変化とよく一致しました。[1]
顕微鏡では「構造が違う」ことを見つけ、標本への操作では「予想した方向へ色が変わる」ことを確かめ、計算では「その構造で光の反射を説明できるか」を調べたわけです。一つの写真だけから判断したのではなく、異なる方法の結果が結びついています。
一方、標本に濃い液を加える操作が、生体内でそのまま起きていると分かったわけではありません。結晶間隔を体がどう制御するのかという分子レベルの仕組みは、この2015年の論文では未解決でした。神経やホルモンの関与は可能性として挙げられています。
皮膚の奥には、もう一つの反射層がある
皮膚の断面には、虹色素胞が浅い層と深い層の二つに分かれていました。組織を調べた対象は、成体の雄5個体、成体の雌4個体、若い個体4個体です。ここまで説明してきた浅い層は成体の雄でよく発達しており、雌や若い個体では少なくなっていました。[1]
深い層で注目されたのは、可視光より波長の長い近赤外(きんせきがい)の光の反射です。

深い層では、結晶はより大きく、並び方も不規則です。こちらは、調べたパンサーカメレオンの性別や年齢によらず見つかりました。さらに、研究で調べた別の3種のカメレオンにも、浅い層と深い層という二層構造がありました。すべてのカメレオンで同じ働きを調べ終えた、という意味ではありません。
熱を防ぐ働きは、どこまで分かった?
深い層は、浸透圧を変える実験で目に見える色の変化を示しませんでした。一方、皮膚は近赤外の光を強く反射しました。深い層の結晶配置を用いた解析も、この反射の特徴を支持しています。[1]
日射を反射すれば、体の奥に吸収されるエネルギーを減らせる可能性があります。そこで論文は、深い層が熱から体を守る働きに関わるかもしれないと述べています。ただし、この層によって実際の体温が下がったことや、暑さへの耐性が上がったことを直接示した研究ではありません。反射の測定と、その生物にとっての効果の検証は分けて考える必要があります。
次に色の変化を見るとき、確かめたいこと
映像などでカメレオンの色変化を見る機会があれば、まず同じ個体の同じ部分を比べてみるとよさそうです。暗くなったのか、色合いが変わったのか。帯模様とその周囲では、同じ変化をしているのか。研究で分けていた点を意識すると、「色が変わった」からもう一歩先へ進めます。
撮影時の光やカメラの設定も、見え方に影響します。この研究では動画の赤・緑・青の成分を処理し、照明や全体的な明るさの変動を抑えて、色合いの変化を調べました。それでも紫外線は記録していません。人に見える映像が、そのままカメレオン自身に見える色のすべてだとは限らないのです。[1]
この研究から見えてきたのは、体色を変える方法が、色素の移動だけではないということです。透明な結晶の間隔が変わり、反射する光が変わり、色素と組み合わさって皮膚の色になる。その過程を知ると、表面の鮮やかさの奥にある、小さな構造にも目を向けたくなります。
体の表面の小さな構造がはたらきを生む例は、ほかにもあります。ヤモリが壁にくっつく仕組みは、足の細かな毛と接着を調べた実験の記事で紹介しています。
もっと知りたい人へ・参考文献
ここでは2015年の原著研究を紹介しました。図1で生体の変化、図2で結晶間隔と皮膚標本の実験、図3で深い層の反射を確認できます。
[1] 結晶の間隔と色変化を、観察・実験・計算で調べる
Teyssier, J., Saenko, S. V., van der Marel, D. & Milinkovitch, M. C. (2015). Nature Communications, 6, 6368. DOI: 10.1038/ncomms7368
Photonic crystals cause active colour change in chameleons(英語・全文公開)



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