写真:Kyu3a「Luciola cruciata on the grass – 8」(CC BY-SA 4.0、表示用の縮小)。
草にとまったホタルの腹が、暗がりで光っています。小さな体の中で、どうやって光を作っているのでしょうか。そして、どうすれば点いたり消えたりできるのでしょうか。
ホタルは、ルシフェリンという物質が酸素と反応するときに生じるエネルギーを、光として放っています。この反応を助けるのが、ルシフェラーゼという酵素です。電球のような部品が入っているわけではなく、体内の化学反応が光を生んでいます。
ただ、光が生まれる反応を知るだけでは、点滅のタイミングまでは説明できません。まず光の材料を確かめ、それを支える体の構造、そして点滅を調べた実験へと進んでみます。
光を作る物質と、反応を助ける酵素
発光反応の主役となるのは、D-ルシフェリンという物質です。ここでは単にルシフェリンと呼びます。ルシフェリンは、ルシフェラーゼの働きで酸素と反応します。その際にはATPとマグネシウムイオンも必要です。[1]
よく似た二つの名前ですが、役割は違います。ルシフェリンは反応に使われる物質、ルシフェラーゼはその反応を進みやすくする酵素です。名前を覚えるより、何が材料で、何が反応を助けるのかを分けて考えると分かりやすくなります。
ATPは、生き物の体内でエネルギーのやりとりに使われる物質です。発光反応では、まずルシフェリンとATPが反応し、次に酸素が関わる段階へ進みます。ルシフェラーゼは、この一連の反応を助けます。[4]
その過程で生じた分子は、一時的に高いエネルギーを持つ励起状態(れいきじょうたい)になります。そこからエネルギーの低い状態へ移るときに、光が放たれます。光る材料を単に混ぜる、というより、反応を通して光を放つ状態を作っているのです。[2]

「蛍光」とは何が違う?
蛍光は、外から受け取った光のエネルギーで生じます。一方、ホタルのような生物発光では化学反応がエネルギー源になります。ホタルは、光るために外から光を当ててもらう必要がありません。[2]
光る場所には、酸素を届ける通り道がある
材料の一つが酸素なら、それを発光する場所まで届ける仕組みも必要です。ここで、ホタルが昆虫であることが関わってきます。
昆虫の体には、空気の出入口となる気門(きもん)があります。その先につながる気管(きかん)は、体内で枝分かれした空気の通り道です。発光する細胞にも、この通り道を通じて酸素が届きます。[3]
2022年、Dunnらは北米のホタル、Photinus pyralisの体内をマイクロCTで調べ、気管を立体的に再構成しました。マイクロCTは、X線を使って小さな物体の内部構造を調べる方法です。下の図は、成虫の雄の腹部を腹側から見た気管系です。

出典:Dunnほか(2022), Fig. 11(CC BY 4.0、表示用の縮小)。画像を押すと拡大できます。
図の左寄りから中央にかけて、細かな管がびっしりと枝分かれしています。この種の成虫雄では、腹部の第6・第7節の腹側に発光器があり、その領域に細かな気管が発達しています。光を作る化学反応は、こうした体の構造に支えられているのです。[3]
図の色は光の色ではなく、管の内側の直径を表しています。赤く描かれた管から赤い光が出る、という意味ではありません。冒頭のゲンジボタルとは別の種ですが、酸素の通り道が発光する場所に張り巡らされている様子を、実際の資料から見ることができます。
酸素が届くことと、点滅の合図はどうつながる?
発光に酸素が必要なら、発光する細胞が酸素を使える状態を切り替えることで、点滅を調節できるかもしれません。こうした考えのもとで研究されてきた物質が、一酸化窒素(いっさんかちっそ)です。化学式からNOと呼ばれます。
NOを加えると、光の反応が変わった
Trimmerらが2001年に報告した実験では、酸素がある条件でNOによってホタルの発光が引き起こされました。また、NOを取り除く物質を使うと、神経の合図を伝えるオクトパミンによって引き起こされる発光が妨げられました。これは、NOが発光の制御に関わるという考えを支える結果です。[5]
ここから検討されたのが、NOによって細胞内の酸素の使い道が変わる、というモデルです。細胞の中にあるミトコンドリアは、通常、エネルギーを得る過程で酸素を使います。NOがその酸素消費を一時的に抑えると、発光反応に使える酸素が増えて光る、という筋道です。[4]
「酸素を作って光らせる」のではなく、すでに届いている酸素が、どの反応に使われるかに注目した説明です。ただし、これをホタル全種の点滅を説明し尽くす唯一のスイッチと考えるのは早計です。
遺伝子の働きから調べると、単純には結びつかなかった
2014年のOhtsukiらの研究は、別の方向からこのモデルを検討しました。注目したのは、NOを作る酵素の遺伝子であるnosです。タンパク質を作るための情報を運ぶmRNAを測り、体のどの部分や成長段階で、この遺伝子が働いているかを調べました。こうして遺伝子の情報が読み出されることを遺伝子発現(いでんしはつげん)といいます。[4]
対象にはゲンジボタル、ヘイケボタル、成虫が弱く光るオバボタルが含まれ、ゲンジボタルでは幼虫と成虫、地域の違いも比較しています。その結果、nosの発現は、点滅する成虫だけに見られるものではありませんでした。
さらに、ゲンジボタル雄の点滅間隔が約2秒の型と約4秒の型を比べても、その違いに対応する明確な発現量の差は見つかりませんでした。地域集団どうしで差が全くなかったのではなく、点滅の速さと発現量を単純に結びつけられなかった、ということです。

著者らは、この結果はNOによる点滅制御のモデルを支持しないと述べています。同時に、NOが発光に関わる可能性を直ちに否定する証拠として使うべきではない、とも注意しています。mRNAの量は、NOの量そのものでも、酵素が実際にどれだけ働いたかでもないためです。[4]
二つの研究を並べるときは、「後の論文が前の論文を否定した」とだけ読むより、何を変えて、何を測ったのかを見ると理解が深まります。NOによって発光の反応が変わることと、nosの発現量で点滅間隔を説明できることは、同じ主張ではありません。
ホタルの光を、三つの視点で見てみる
次にホタルの光を見る機会があれば、明るさだけでなく、光る場所、光り方、点滅の間隔にも目を向けてみてください。
冒頭の写真では、ゲンジボタルの腹の後方の下側が光っています。その内側には、光を生む反応と、それに必要な酸素を届ける体の仕組みがあります。見えている小さな光から、体内の働きへと関心を広げられます。
また、ホタルの光り方は種や成長段階によって違い、成虫がみな同じように点滅するわけではありません。ゲンジボタルの幼虫も光りますが、2014年の論文では、成虫のように周期的に点滅するのではなく、弱い連続した光を出すと説明されています。[4]
光を作る材料が分かっても、その光をいつ使うかには、もう一段別の仕組みがあります。「どうやって光を作るか」と「いつ光るか」を分けることで、一つの発光現象の中に、化学反応、体の構造、合図の制御という異なる問いが見えてきます。
体の中で合図がどう伝わるかに興味が湧いた方は、タコの腕どうしをつなぐ神経の記事もどうぞ。こちらでは、解剖図から神経のつながりをたどっています。
もっと知りたい人へ・参考文献
発光に必要な物質を知る
[1]産業技術総合研究所(2024年12月25日)。
“ホタルの光”を簡便に合成する方法を開発!
化学反応のエネルギーと蛍光との違い
[2]産業技術総合研究所(2017年12月11日)。用語説明「生物発光酵素」「発光基質」「生物発光」など。
人工生物発光酵素(ALuc®)に選択的に発光する基質を開発
気管の立体構造を調べた研究
[3]Dunn, K. N. ほか(2022). PLoS ONE, 17(6), e0268112.
Morphological changes in the tracheal system associated with light organs of the firefly Photinus pyralis (Coleoptera: Lampyridae) across life stages
点滅制御のモデルを遺伝子発現から検討する
[4]Ohtsuki, H. ほか(2014). Journal of Insect Science, 14(1), 56.
Expression of the nos gene and firefly flashing: A test of the nitric-oxide-mediated flash control model
NOと発光の関わりを調べた実験
[5]Trimmer, B. A. ほか(2001). Science, 292(5526), 2486–2488.
Nitric oxide and the control of firefly flashing(本文で紹介した実験結果は公開抄録に基づきます。)



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