コケは乾くと枯れる? 水を得て回復するまでの時間

茎の周りに細長い緑の葉が並ぶコケ Polytrichum formosum 植物
Polytrichum formosum の葉と茎。細長い葉が茎の周りに並んでいます。

乾いて縮んだコケに、再び水が届く。そこで活動が戻るとしたら、体の中では何が起きているのでしょうか。水を含んで形が戻ることと、光合成が元の速さに戻ることは、同じなのでしょうか。

コケの中には、強く乾燥した状態を生き延び、水を得て活動を再開できる種があります。ただし、耐えられる乾き方や期間には限りがあります。ここで大切なのは、水を得て活動を再開することと、乾く前と同じ状態まで戻ることは、別のできごとだという点です。前者は数分、後者は条件によって数時間から数日かかります。

この記事では、2007年に学術誌 Annals of Botany に発表された乾燥後の回復を調べた研究を紹介します。対象はコケの一種 Polytrichum formosum です。二酸化炭素の出入りと細胞の構造を比べると、「回復」という言葉が実はいくつもの段階に分かれていることが見えてきます。[1]

冒頭写真:Alexander Klink / Wikimedia Commons(CC BY 3.0)。Polytrichum formosum の写真で、研究に使われた試料とは別のものです。

実験は「回復」をどうやって測ったのか

研究チームが使ったのは、シュート(茎と葉がまとまった地上部)の先端2センチメートルを切り取った試料です。これを8本で1組にして扱います。乾燥は特別な装置ではなく、相対湿度40〜50パーセント、気温20〜22度に保った実験室で自然に進めました。乾燥させる期間は変えてあり、この記事で中心になるのは9日間と18日間の二つの条件です。

再び水を与えたあとの様子は、二酸化炭素の出入りで追いました。試料を専用の小さな容器に入れ、赤外線ガス分析計で容器を通る空気の二酸化炭素濃度の変化を測ります。光を当てた試料と暗所に置いた試料を比べました。光を当てる側の強さは約500 µmol m⁻² s⁻¹です。これは、単位面積に1秒間に届く、光合成に使える光の粒の量を表します。

なぜ二酸化炭素の出入りを見るのか

植物の細胞では、呼吸が二酸化炭素を出し、光合成が二酸化炭素を取り込みます。外から測れるのはこの二つを足し引きした結果、つまり正味の収支だけです。正味の取り込みがマイナスでも、光合成がゼロだという意味にはなりません。放出のほうが多いというだけです。

収支がちょうど釣り合ってゼロになる時点を、補償点(ほしょうてん)と呼びます。この研究では、水を与えてから何分で補償点に達したかが、回復の速さを比べるための分かりやすい目印になっています。

この測り方で言える範囲

グラフの読み方にも条件があります。原著のグラフに示されている点は、30秒間隔の測定値を5回分ずつならした移動平均であり、5つの個体を平均したものではありません。1組の8本も、8つの独立した繰り返しとして扱われているわけではありません。また、明るい条件と暗い条件を比べた図はおおよそ条件を揃えた別の試料によるもので、測定開始から10〜15分のあいだに見える小さな差は、測定の精度の範囲として深く解釈されていません。少数の試料を細かい時間間隔で追った記録だと考えると、この研究の性格がつかみやすくなります。

8本のコケを入れた容器に空気を通し、二酸化炭素の取り込みと放出の差を測る模式図
ガス交換測定の模式図。容器を通る空気の二酸化炭素濃度から、呼吸による放出と光合成による取り込みの差し引きを測ります。文献1の方法にもとづく模式図です。

水を与えて、最初に戻るもの

9日間乾燥させた試料に水を与えると、呼吸は1分以内に再開しました。水が戻ると、組織の働きがごく短い時間で再開したのです。死んでいたものが生き返ったのではなく、止まっていた働きが動き出した、という順序です。

ただし、このとき正味の二酸化炭素収支はまだマイナスでした。呼吸による放出が先に立ち上がるため、しばらくは吐き出すほうが多い状態が続きます。収支がゼロになる補償点に達したのは、水を与えてから15〜20分後でした。

コケの側から見ると、再給水の直後には、呼吸による放出が光合成による取り込みを上回り、炭素を失っています。その分を光合成で取り返して差し引きゼロに戻るまでには、約30分かかりました。そして60分後の正味光合成は、乾燥させる前の約70〜80パーセントでした。数分で動き出し、30分で収支の帳尻が合い、1時間たってもまだ8割前後。これが9日条件で見えた回復の道筋です。

9日と18日で、回復の速さは変わる

同じ種の同じ実験でも、乾燥期間を18日に延ばすと数字が変わります。補償点に達したのは約28分後で、失った炭素を取り返すには1時間強かかりました。60分後の正味光合成は乾燥前の約3分の1にとどまり、乾燥前の値まで戻るには2〜3日が必要でした。

9日条件の「1時間で7〜8割」と、18日条件の「1時間で3分の1、完全には2〜3日」は、混ぜて語れない別の結果です。原著の要旨には約24時間で回復するという記述があり、図にも9日乾燥の24時間後に測った値が示されています。しかし18日条件では2〜3日を要しているのですから、この研究をもとに「コケは1日あれば回復する」と一般化することはできません。言えるのは、同じ種であっても、どれだけ長く乾いていたかによって回復に必要な時間が変わるということです。

9日乾燥では収支ゼロまで15〜20分、18日では約28分。60分後の正味光合成はそれぞれ乾燥前の70〜80%、約3分の1
9日間と18日間の乾燥後の回復比較。乾燥期間が長い試料では、二酸化炭素収支の回復にも時間がかかりました。文献1の結果を整理した図です。

乾き方の「強さ」でも変わる

変わるのは期間だけではありません。乾燥中に置く湿度を変えた比較では、長期間の乾燥のときは相対湿度43パーセント前後で保った試料の回復が良好でした。興味深いのは、試した中で最も高い74パーセントでも、最も低い湿度でも回復が良くなかったことです。湿度が高ければ高いほど安全、という単純な関係ではありません。

ただしこれは、切り取った試料を実験室の限られた条件に置いた結果です。コケを育てるときの湿度の目安として、そのまま持ち出せる数字ではないことは付け加えておきます。

速い指標と、遅い指標

この研究がもう一つ使ったのが、クロロフィル蛍光(けいこう)という測り方です。葉に光をあてると、吸収した光のごく一部が弱い光として返ってきます。その返り方から、光合成の入口にあたる光化学系II(こうかがくけい に)という装置が光をどれだけ効率よく使える状態にあるかを推定できます。ここで使う Fv/Fm という指標は、この装置の最大の効率を表します。

数日間乾燥させた試料では、水を与えて10分後にこの指標が乾燥前の約80パーセントまで戻り、1時間後には約95パーセントに達しました。そのあとは12〜24時間かけてゆっくり上がっていきます。

ここで、二酸化炭素の測定結果と比べてみてください。光を受け取る装置の指標は1時間でほぼ元の水準に近づくのに、正味の二酸化炭素収支は9日・18日乾燥の実験では1時間後にも乾燥前の水準に届いていない。試料の乾燥条件も異なるため、これらの割合をそのまま同じ試料の回復率として比べることはできません。ただ、原著では光を当てたときの別の蛍光指標も測り、そちらはCO₂交換の回復により近い動きを示しました。測定指標ごとに捉える働きが違うのです。蛍光の指標は光合成の入口の状態を表すもので、実際に取り込まれる二酸化炭素の速さそのものではないからです。速く戻る部分と、遅れて戻る部分がある——これが「回復には二つの顔がある」と言える根拠になっています。

細胞の中では何が保たれていたのか

外から測るだけでは、なぜ速い回復と遅い回復に分かれるのかが分かりません。そこで研究チームは、18日間乾燥させた試料を電子顕微鏡で観察しました。

まず保たれていたものです。葉緑体の内部にあるチラコイド(光合成で光を利用する反応を担う膜構造)と、ミトコンドリアの内部のひだであるクリステは、乾燥を通じて構造を保っていました。光合成や呼吸を支える膜構造が、乾燥中にも保たれている様子が観察されたのです。

一方で変わっていたものもあります。葉緑体の外側の形は、乾くと角が取れて丸みを帯びました。水を与えたあとは徐々に元の複雑な形へ戻っていき、多くの形態は24時間でおおむね回復しますが、薄い板のように伸びた部分が元の姿になるには48時間かかりました。細胞そのものの体積も乾燥で減り、細胞壁が内側へへこむ変化が見られています。なお、この種の観察では試料を固定する条件が悪いと人工的な膨らみが写ってしまうため、著者らは固定の条件を吟味したうえで形を比較しています。

著者らはこの観察から、乾燥を耐え抜いた部品が再び組み立てられ、働きを取り戻すことが速い回復の背景にあると解釈しています。そして、部品どうしの空間的な位置関係を組み直すのに時間がかかることが、完全な回復の遅さと結びついているのではないかと述べています。これは観察された構造にもとづく著者の解釈であって、直接証明された因果ではありません。

コケの葉の縁を拡大した写真。細胞が並び、緑色の部分が見えます
Polytrichum formosum の葉を拡大した写真。葉の縁には細胞の並びが見えます。葉緑体内部の膜を調べるには、本文で紹介した電子顕微鏡観察が必要です。
写真:Randal / Wikimedia Commons(CC0)。研究に使われた試料とは別の写真です。

作り直しはどれくらい必要なのか

もし回復のたびに材料を一から作り直しているなら、新しいタンパク質を作れなくすれば回復は止まるはずです。研究チームは9日間乾燥させた試料に、タンパク質を新しく作る働きを妨げる薬剤を2種類使って、この点を調べました。

暗い条件では、薬剤を加えても蛍光の指標は水だけを与えた場合と同じように回復しました(3回の繰り返し)。ところが明るい条件では、薬剤を加えた試料の指標が次第に下がっていきました(5回の繰り返し)。

この結果は、水を得た直後の再稼働が新しいタンパク質を作ることに全面的に依存しているわけではない、という方向を示しています。ただし修復がまったく要らないとか、光が害になるといった断定はできません。実験室で条件を切り分けるための薬剤であり、コケを育てる場面に持ち込むものでもありません。

すべてのコケが同じ時間で戻るわけではない

ここまでの数字はすべて、Polytrichum formosum という一つの種を、切り取った先端2センチメートルの試料として、実験室の湿度・温度・光のもとで測った結果です。コケの仲間は種数が多く、乾燥への強さも大きく異なります。この研究をもって、あらゆるコケが同じ時間で回復するとは言えません。乾いて縮んだコケがすべて生きているわけでもありません。

野外の乾燥は、ゆっくり乾く日もあれば一気に乾く日もあり、湿り具合も時間帯で変わります。実験室で一定に保った条件とは違うことも、結果を受け取るときの前提になります。

そして観察上、いちばん実感しやすい注意はこれです。緑に戻って見えることと、光合成が元の速さに戻っていることは同じではありません。この研究で測った正味光合成は、9日間の乾燥後には再給水から1時間たっても約70〜80パーセント、18日間の乾燥後には元の値に戻るまで2〜3日を要しました。目で見えるのは形の変化までで、その先は測らないと分かりません。

次にコケを見るときに

この研究を知ったうえで身近なコケを眺めると、見る順番が少し変わります。同じ場所のコケを、晴れが続いた日と雨上がりに見比べてみる。写真を撮るなら、いつ、どこを写したかも残してみる。形の開き方がどのくらいの速さで進むのか、種類や生えている場所で違うのか。光合成そのものを測る道具がなくても、時間を軸にして見るという実験の姿勢は、そのまま観察に持ち込めます。

乾燥を生き延びたコケには、水を得てすぐ動き出す働きと、時間をかけて整う構造がありました。見た目の先にある、その時間の違いに目を向けると、小さなコケの回復も一つの出来事ではなくなります。

もっと知りたい人へ・参考文献

この記事の数値と観察は、次の論文にもとづいています。英語の論文ですが、図を眺めるだけでも回復の段階が追えます。

記事の土台になった研究
Proctor MCF, Ligrone R, Duckett JG (2007). Annals of Botany 99(1): 75–93. doi:10.1093/aob/mcl246
Desiccation Tolerance in the Moss Polytrichum formosum: Physiological and Fine-structural Changes during Desiccation and Recovery

同じ論文の再掲版
図の印刷再現に問題があったため全文が掲載し直されたものです。数値の訂正ではありません。
同論文の訂正・再掲版(Annals of Botany)

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