砂漠のアリは歩いた距離をどう知る? 歩幅と景色の実験

6本の長い脚を広げたサバクアリを上から見たイラスト 昆虫
サバクアリの姿をイメージしたイラスト。AI生成で、実験個体の写真や種を見分けるための図ではありません。

砂漠のアリは、餌を見つけたあと、どうやって巣までの距離を知るのでしょう。手掛かりになるのは、歩くときの脚の動きと、目に映る地面の像の流れです。ただし、二つの情報がいつ使えるかによって、巣を探す場所は変わります。

ここでは、サバクアリの一種 Cataglyphis fortis(カタグリフィス・フォルティス)を調べた二つの研究を紹介します。脚の長さや見え方を変える実験から、距離を見積もる仕組みをたどります。[1][2]

巣のない通路で、どの位置を探すかを測る

本物の巣の近くで観察すると、巣穴や周囲の景色そのものが手掛かりになってしまいます。歩いた距離の見積もりを調べるには、それらから切り離す工夫が必要です。

2007年の実験では、まず巣から10m離れた餌場まで、細い通路を歩いて通うようにアリを訓練しました。餌場で捕まえたアリを、平行に置いた別の試験通路に移して放します。この通路は24mあり、途中に巣はありません。[1]

アリはしばらく進むと折り返し、その前後を往復して巣を探します。研究者は折り返した位置を記録し、探索の中心を求めました。そこが、アリの距離の見積もりを知る手掛かりになります。

訓練では巣から餌場まで10m歩き、餌場から別の24mの試験通路の0m地点へアリを移す配置図
訓練通路と試験通路の配置。アリを移した先には巣がないため、どの位置を探すかを測れます。2007年の方法に基づく模式図です。[1]
「探索の中心」は、最初に折り返す場所とは別

この記事の結果は、すべて最初に放した点から探索中心までの距離です。2007年は最初の6回、2018年は2〜6回目の折り返し位置を使い、個体ごとに中央値を求めています。そのうえで、群全体も中央値で比べます。中央値とは、値を小さい順に並べたときの中央に当たる値です。

脚の長さを変えると、探す場所がずれる

行きは元の脚、帰りは長い脚・短い脚

2007年の研究が変えたのは、脚の長さでした。餌場まで歩いたアリに、脚を長くした群、短くした二通りの群、変えない群を用意します。各群25個体です。行きを歩き終えたあとに操作するので、帰りだけ歩き方が変わります。

探索の中心は、脚を変えない群が10.20m、長くした群が15.30m、短くした群が6.95mと5.75mでした。同じ10mの往路を歩いていても、長い脚では遠く、短い脚では手前を中心に探したのです。[1]

脚の変更直後は延長群15.30m、短縮群6.95mと5.75m。往復とも変更後の脚では各群が10m付近を探した比較図
脚を変える時期と探索中心の比較。茶色の丸は帰りだけ脚が変わった試験、青いひし形は往復とも変更後の脚で歩いた再試験です。各群25個体の中央値を示し、個体差の範囲は省略しています。[1]

往復とも同じ脚なら、10m付近に戻る

脚を変えたアリを一度巣へ帰し、今度は変更後の脚で餌場まで歩かせてから再試験すると、探索の中心はいずれも10m付近になりました。三つの変更群の間に、統計的に有意な差は認められていません。

この比較が示すのは、行きの歩き方と帰りの歩き方の対応が大切だということです。行きの脚の動きに基づく距離情報を、帰りにも使っていると考えると、結果を説明できます。

脚を長くしたら、歩幅も同じ割合で長くなるとは限りません。研究では帰巣(きそう)の試験とは別の個体群を高速度撮影し、体の大きさや歩く速さも踏まえて、実際の歩幅を調べています。

「歩数計」のたとえで分かること、分からないこと

この仕組みは、歩く動きから距離を測る「歩数計」にたとえられます。ただし研究が支持するのは、歩行に伴う情報を積み上げて距離を見積もる仕組みです。アリが意識して一歩ずつ数えていることや、歩数を数える特定の神経細胞が見つかったことを意味しません。

また、脚の動きが手掛かりになるからといって、それだけを使うとは限りません。そこで次は、地面の見え方を変える実験を見てみましょう。

地面が見える時期を変えると、どうなる?

歩いていると、地面の模様は目の前を流れていきます。このような像の動きをオプティックフローと呼びます。目印となる岩や木の位置を覚えることとは、違う種類の手掛かりです。

2018年の研究では、同じ C. fortis の複眼(ふくがん)の腹側(ふくそく)半分、つまり地面に向いた側を覆いました。目全体をふさぐのではなく、地面の像の流れを受け取る部分を覆う操作です。往路は10m、別に用意した試験通路は35mでした。[2]

帰りだけ覆うと、手前を探す

ここでは研究のうち四つの条件を比べます。覆わない群26個体では、探索の中心は10.75m。往復とも覆った群26個体は11.30mで、覆わない群との有意な差はありませんでした。

ところが、行きは覆わず、帰りだけ覆った群39個体は5.70mを中心に探しました。ずっと見えない場合と、行きに見えていたものが帰りに見えなくなる場合では、結果が違ったのです。

最初の折り返しで覆いを外すと、遠くを探す

行きは覆わず、帰りの初めは覆っておき、最初に折り返したところで覆いを外す条件も試しました。この群26個体では、その後の探索中心が15.80mになりました。

15.80mは、最初にアリを放した点からの距離です。覆いを外した地点から、さらに15.80m進んだという意味ではありません。地面を見る情報が途中で戻ると、探す範囲の中心が、往路の10mを越えた位置へ移ったのです。

複眼の腹側を覆う時期の比較。覆わない10.75m、往復とも覆う11.30m、帰りだけ覆う5.70m、初回折返しで外す15.80m
目を覆う時期と探索中心。青い「あり」は複眼の腹側半分を覆っている期間です。覆いを外した群も、距離の基準は最初に放した点です。各個体の2〜6回目の折り返し位置から求めた探索中心を、群の中央値で示しています。[2]

二つの手掛かりを、どう組み合わせるのか

脚の動きと、地面の像の流れ。二つの研究からは、どちらも距離の見積もりに関わり、使える時期によって探す位置が変わることが分かります。2018年の結果は、二つの情報が互いに影響し合うことを示しています。

一方、二つをどんな規則でまとめているかは、まだこの実験だけでは決まりません。情報を足し合わせるのか、状況に応じて一方が優先されるのか。論文が検討する組み合わせ方は、観察を説明する候補であり、神経の仕組みを直接測った結果ではありません。

今回の対象は、通路を歩く C. fortis です。ほかのアリまで同じだと決めつけることはできません。それでも、行きと帰りで条件をそろえる、片方だけ変えるという比べ方から、小さなアリが頼る距離の手掛かりを切り分けられるのです。

もっと知りたい人へ・参考文献

実験の配置や、アリごとのばらつきまで知りたい方は、原著の図も見比べてみてください。

[1] 脚の長さと歩幅を変えた実験を詳しく知る
Wittlinger, M., Wehner, R. & Wolf, H. (2007). Journal of Experimental Biology, 210, 198–207. DOI: 10.1242/jeb.02657
The desert ant odometer: a stride integrator that accounts for stride length and walking speed

[2] 目を覆う時期と、二つの距離情報の関係を読む
Wolf, H., Wittlinger, M. & Pfeffer, S. E. (2018). PLoS ONE, 13(10), e0204664. DOI: 10.1371/journal.pone.0204664
Two distance memories in desert ants—Modes of interaction

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