フンコロガシは天の川を道しるべにする? 星空を変えた実験

Scarabaeus satyrusの標本を背面から見た写真。 昆虫
研究対象と同じ種、Scarabaeus satyrus の標本。写真:Udo Schmidt/Wikimedia Commons、CC BY-SA 2.0。画像は変更していません。

まっすぐ進むことが、なぜ大事なのか

動物の糞が落ちると、フンコロガシが集まってきます。糞玉(ふんだま)を作った個体は、その場から離れようとします。まわりには競争相手がいて、糞玉を奪われるおそれがあるためです。

このときに効いてくるのが、まっすぐ進めるかどうかです。方向が定まらずに曲がってしまえば、せっかく離れたつもりでも混み合った場所へ戻ってきてしまいます。

南アフリカの Scarabaeus satyrus という種を調べた2013年の研究は、天の川の光を方向維持の手がかりに使えることを示しました。ただし、これは「星座を読んでいる」という話でも、「巣に帰れる」という話でもありません。あくまで、離れる方向を保つ能力についての結果です。

小さな虫が、広い夜空のどの部分を頼りにしているのでしょうか。研究者は帽子で空を隠し、さらにプラネタリウムで星や光の帯を消して確かめました。

「空が見えない」という条件だけを取り出す

空が手がかりなら、空を隠せば進み方が乱れるはずです。しかし、ただ何かをかぶせて比べるだけでは困ったことが起きます。乱れたのは空が見えないせいなのか、それとも体に何かを載せられたせいなのか、区別できないからです。

そこでこの研究では、不透明な帽子と透明な帽子を比べました。同じ形の帽子を使うことで、何かを載せた影響と、空を隠した影響を切り分けようとしたのです。不透明な帽子で空を隠した場合は経路が長くなり、透明な帽子では帽子なしとの有意(ゆうい)な差は見られませんでした。

比べる相手をどう選ぶかで、言えることの強さが変わります。ここは実験を読むときの最初の着眼点です。

地上の目印を消して、空だけを残す

空の話をしているつもりでも、虫が木や石など地上の目印を使っていれば、結論は成り立ちません。

時間を測る実験では、直径2メートルの円形の台を、地上の目印を隠す黒い壁で囲みました。虫を中央から出し、糞玉を転がして縁に達するまでの時間を測ります。移動速度が大きく変われば、時間だけでは経路を比べられません。研究チームは速度の差を検討したうえで、退出までの時間を「まっすぐさ」の目安にしました。帽子を使って経路の長さを調べた実験とは、装置も測定方法も異なります。

中央の出発点から円形の台の縁へ向かう経路の模式図。直線と曲線で道のりの違いを示します。
退出時間を測る円形の台の模式図。経路は説明用の例であり、実測した軌跡ではありません。

地上の目印を見えなくすれば、それを頼りにした可能性を減らせます。空から得られる情報に注目するための工夫です。

空そのものを作り替える

屋外の空では、「星は残して天の川だけ消す」といった操作ができません。そこで舞台をプラネタリウムに移し、天井に映す空を切り替えました。

用意された条件は、星空全体、天の川の光の帯だけ、暗い星だけ、明るい18個の星だけ、そして真っ暗という状態です。屋外ではできない引き算が、投影ならできます。

プラネタリウムの五つの投影条件。暗い星の分布にも天の川の方向に沿う偏りがあります。
プラネタリウムで比較した投影条件の模式図。星の位置や個数、明るさは実際の投影を再現していません。

「暗い星だけ」の条件でも、空の手がかりがすべて消えるわけではありません。光の帯を消しても、天の川の方向には暗い星が密集しています。虫が一つ一つの星を見分けられなくても、まとまった明るさの違いが方向の手がかりになり得ます。

「差がなかった」をどう読むか

結果のうち、天の川だけを映した条件は、星空全体の条件と統計的に意味のある差が出ませんでした。

ここは読み方に注意が必要です。「差が見つからなかった」は、「同じ能力だと確かめられた」ではありません。差が小さい場合も、試した数が足りずに差を検出できなかった場合も、同じように「差なし」と表示されます。この研究では条件ごとに別の個体を使い、各個体を3回試した平均を解析しました。試行回数と個体数は別なので、3回を3個体とは数えません。

暗い星だけの条件でも、星空全体との有意な差は見られませんでした。一方、明るい18個の星だけの条件や暗闇では、星空全体の条件より退出に時間がかかりました。こうした比較を合わせ、研究チームは天の川がつくる広がった明るさのパターンを方向維持に使えると結論づけています。一つの「差なし」だけで結論を決めたわけではありません。

この実験から言えること、言えないこと

  • 対象は南アフリカの1種です。すべてのフンコロガシ、すべての環境に広げることはできません。
  • ドーム内では投影条件を操作できますが、自然の夜空には雲や月明かりなどの違いがあります。投影した空での結果が、どんな屋外環境でも同じように当てはまるとまでは言えません。
  • 分かったのは、糞をめぐる競争の場から離れる方向を保つことについてです。決まった巣へ帰る能力の話ではありません。

星空を見るときに思い出したいこと

空に光るものを利用するといっても、一つの明るい星を目印にする方法と、広がった光の帯を使う方法は違います。この研究の面白さは、夜空を一枚の背景とせず、手がかりを分けて試したところにあります。

同じ結果に見えても、測ったのが経路の長さなのか、縁までの時間なのかで読み方は変わります。実験の条件と測定方法を一緒に見ると、フンコロガシの能力について言える範囲が見えてきます。

もっと知りたい人へ・参考文献

実験の手順と条件を自分で確かめたい人へ

Dacke, M., Baird, E., Byrne, M., Scholtz, C. H. & Warrant, E. J.(2013)Current Biology 第23巻 298–300ページ。DOI: 10.1016/j.cub.2012.12.034

Dung Beetles Use the Milky Way for Orientation(PDF・英語)

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